── 初心者でも“判断できる”ようになる実践ガイド
目次
1. はじめに:なぜ間取りで後悔するのか?
家づくりの相談を受けていると、
完成してからこうおっしゃる方が少なくありません。
「もっと早くこの視点を知っていれば……」
SNSやモデルハウスで見る間取りは、とても素敵です。
ですが、それは「その人の暮らし」には合っていても、
あなたのご家族に合うとは限らないんですね。
初心者の方が間取りを判断しにくいのは、
- 図面の見方を教わる機会がない
- 「おしゃれ」と「暮らしやすさ」の違いが分かりにくい
- 営業トークでは“良いところ”が中心になる
こういった理由が重なっているからです。
この記事のゴールは、
「プロでなくても、自分の言葉で良し悪しを判断できるようになる」こと。
「なんとなく不安」から
「ここは良い、ここはもう少し工夫したい」と
はっきり言える状態を目指していきましょう。
これからご紹介するのは、
建築士が図面を見るときに無意識にチェックしている10の視点です。
2. 視点①:家事動線(洗濯・キッチン・片付け)
まず最初は、毎日必ず発生する「家事」の動きです。
特に負担が大きいのは、この3つ。
- 洗濯
- キッチン(料理)
- 片付け・掃除
洗濯動線は「洗う→干す→しまう」が一直線か
間取り図を見ながら、次のルートを指でなぞってみてください。
洗濯機 → 干す場所(ベランダ・室内干し) → 服をしまう場所(クローゼット)
このルートが、
- 行ったり来たりの“往復”が多くないか
- 階段の上り下りが何回も入っていないか
ここをチェックしてみましょう。
✔ チェックポイント
- 「洗濯機」と「干す場所」は同じフロアにあるか
- クローゼットまでが遠すぎないか
- 物干しスペースが“通り道”になっていないか
キッチン周りは「1〜2歩」で完結できるか
キッチンは、
- 冷蔵庫
- シンク
- コンロ
- 食器棚
この4つの位置関係がとても大事です。
冷蔵庫 → シンク → コンロ
食器棚 → 配膳カウンター → ダイニング
このあたりが3〜4歩以内で回れるイメージだと、
毎日の料理がかなりラクになります。
✔ 鉄板パターンの例
- 冷蔵庫はキッチン入り口付近(家族も取りやすい)
- 食器棚とダイニングは近く
- パントリーは「キッチンのすぐ横」
「ぐるぐる歩き回るキッチン」ではなく、
**「少ない歩数で完結するキッチン」**をイメージしてみてください。
3. 視点②:生活動線(起床・帰宅・就寝)
次は、家族全員が毎日通る「生活の動き」です。
朝の混雑が起きる間取りとは?
朝は、
- トイレ
- 洗面台
- クローゼット
に家族が集中します。
✔ 間取り図でイメージしてみましょう
「平日の朝」を思い浮かべながら、
寝室 → トイレ → 洗面 → クローゼット → ダイニング
この動きが、
- 同じ場所に人が“溜まりすぎないか”
- 行き止まりになっていないか
を見てみてください。
玄関〜洗面〜クローゼットの「黄金ルート」
共働きご夫婦に特におすすめなのが、
玄関 → ただいま手洗い → ファミクロ(着替え) → LDK
というルートです。
- 子どもが帰ってきて、すぐ手を洗える
- コートやカバンをその場で片づけられる
- 汚れを家の中に持ち込みにくい
こうしたメリットが得られます。
階段の位置で生活が変わる
階段がどこにあるかも、生活動線に大きく影響します。
- 玄関ホールから2階に上がれる → 子どもがリビングを通らず自室へ
- LDKの中に階段 → 家族が顔を合わせやすい
どちらが正解というわけではなく、
ご家庭の考え方と合わせることが大切です。
「我が家はどちらの暮らし方が合うかな?」と、
ご夫婦で話すきっかけにしていただければと思います。
4. 視点③:収納計画(量より“位置”)
収納で大事なのは、「量」だけではありません。
むしろ、**「どこにあるか」**が暮らしやすさに直結します。
収納率の目安
ざっくりですが、
延べ床面積(家全体の床面積)の10〜15%程度が
収納面積の目安と言われることが多いです。
ただし、同じ収納面積でも、
- 1か所にドーンと大きい収納
- 必要な場所ごとに分散した収納
では、使いやすさがまったく違います。
ファミクロの正しい配置
最近人気の「ファミリークローゼット(家族共有のクローゼット)」。
便利ですが、配置を間違えると
- わざわざ遠くまで取りに行く
- 洗濯動線と合っていない
といった“ちょっと残念な状態”になりがちです。
✔ 理想はこんな位置関係
- 洗濯物を干す場所から近い
- 玄関〜洗面〜ファミクロがひと続き
- 2階寝室の場合は、寝室クローゼットと役割分担を決める
「動線上収納」は最強
収納は、
通るついでに片づけられる場所にあるか
が重要です。
- 玄関の近くに土間収納
- リビングの通り道に日用品の収納
- 階段近くに掃除機の置き場所
「しまうために移動する収納」ではなく
**「通りがかりに片づけられる収納」**を意識してみてください。
5. 視点④:採光とプライバシー
明るさの話になると、
「南向き」「大きな窓」といったキーワードが出てきますが、
それだけでは不十分です。
明るさは「窓の数」ではなく“配置”で決まる
同じ窓の大きさでも、
- 向いている方角
- 窓の高さ
- まわりの建物
によって、入ってくる光は大きく変わります。
✔ 間取り図で見るポイント
- LDKのどの面に窓があるか(南・東・西・北)
- 掃き出し窓ばかりでなく、腰高窓・高窓もバランスよく入っているか
- 隣家との距離が近い部分に、大きすぎる窓がないか
プライバシーとセットで考える
「明るさ」だけを追いかけると、
- 道路から室内が丸見え
- 向かいの家と“お見合い窓”になる
ということもあります。
■ 図解イメージ
- 南=大きな窓
- 道路側=少し高さのある窓
- 人通りが少ない庭側=開放的な窓
こんなイメージで、
「光」と「視線」をセットで考えるのがおすすめです。
6. 視点⑤:風・空気の流れ
次は、意外と見落とされがちな「空気の道」です。
自然風は“入口と出口”がセット
風通しをよくしたい場所には、
- 風の“入口”になる窓
- 風の“出口”になる窓
この2つが必要です。
✔ よくあるNGパターン
- LDKに大きな窓が1枚だけ → 風が抜けない
- 窓が同じ面に並んでいるだけ → 流れが生まれにくい
図面上で、
「この窓から入った風が、どこへ抜けていくか?」
を指でなぞってみてください。
気密とのバランス
最近は「気密性能(すき間の少なさ)」も重視されます。
気密が高いと、
- エアコン効率がよくなる
- すきま風が減る
といったメリットがあります。
一方で、換気は
- 機械換気(24時間換気)
- 給気口や窓を開ける自然換気
を組み合わせて行います。
「気密が高い=風通しが悪い」ではなく、
「計画的に空気を入れ替える」というイメージを持っていただければ大丈夫です。
7. 視点⑥:音の問題
暮らしてからじわじわ効いてくるのが「音」の問題です。
寝室と子ども部屋の関係
- 寝室のすぐ横がトイレ
- 子ども部屋の下がリビングのテレビ
- 階段の吹き抜けを通して、音が全フロアに響く
こういった配置は、
生活リズムが違うご家庭ほど影響が出やすくなります。
トイレの位置で後悔しやすいポイント
- リビングの真横
- 来客時に音が気になる位置
- 寝室の枕元に近い位置
は、避けられるなら少しずらしてあげると安心です。
✔ 図面を見るときのチェック
- 寝室の周りに「音の出る部屋(トイレ・リビング)」が密集していないか
- 階段ホールを“ワンクッション”として挟めているか
完全な防音は難しくても、
「直に隣り合わせない」だけでも、体感はかなり変わります。
8. 視点⑦:ゾーニング(配置の基本)
「ゾーニング」とは、
家の中を大きくエリア分けして考えることです。
3つのゾーンをイメージする
家の中は、おおまかに
- パブリックゾーン(LDK・玄関・トイレ・洗面など)
- プライベートゾーン(寝室・子ども部屋)
- サービスゾーン(水まわり・収納・家事スペース)
に分けられます。
✔ 良い間取りの基本
- パブリックとプライベートがほどよく分かれている
- サービスゾーン(洗面・脱衣・浴室・洗濯・ファミクロ)が近くにまとまっている
- 無駄な廊下が少なく、“回れる”動線になっている
“行き止まり”のない動線
- 一度入ると、同じルートを戻るしかない
- 家の奥が袋小路のようになっている
こうした行き止まりが多い間取りは、
日々の移動が増え、使いづらく感じやすくなります。
図面を見て、
「家の中をぐるっと一周できるか?」
を確認してみてください。それだけでも、かなり印象が変わります。
9. 視点⑧:家族の成長と変化
家は「今」のためだけでなく、
10年後・20年後の暮らしも支えてくれる存在です。
子どもの成長と間取り
- 0〜5歳:リビング近くで遊ぶ、親の目が届く場所が大事
- 小学生:宿題をするスペース、ランドセルの置き場
- 中高生:自室での時間が増える、音・プライバシーの配慮
この流れを頭に置きながら、
- 子ども部屋はどこに配置するか
- 将来仕切れるような間取りにするか
- 勉強スペースはどこに置くか
を考えておくと安心です。
夫婦の働き方も変わる
- 今は出社メインでも、将来リモートワークが増えるかも
- 独立・転職などで、家での仕事時間が増えるかも
そんな可能性も含めて、
- 個室の書斎が必要か
- リビングの一角をワークスペースにするか
- 将来ワークスペースに転用できる場所をつくるか
を考えておくと、後からの工事を減らせます。
「今ピッタリ」だけでなく、
**「少しアレンジすれば将来にも対応できる」**間取りが理想です。
10. 視点⑨:構造から見る間取り
ここから少しだけ“建築っぽい話”になりますが、
できるだけやさしくお伝えします。
地震に強い家の“形”
構造的には、
- 凸凹が少なく、シンプルな形
- 1階と2階のバランスが良い
- 壁が偏っていない
こういった家のほうが、
耐震等級3などの高いレベルを取りやすいです。
逆に、
- L字型・コの字型で大きくえぐれている
- 2階だけ大きく張り出している
- 大開口・吹き抜けが連続している
といったプランは、
構造計算や補強の工夫がより必要になります。
吹き抜け・大開口の考え方
吹き抜けや大きな窓は、とても魅力的です。
一方で、
- 壁が減る → 耐震の工夫が必要
- ガラス面が増える → 断熱性能の工夫が必要
という側面もあります。
「やめたほうがいい」という話ではなく、
**「その分、構造と断熱の裏付けを確認しましょう」**というイメージです。
営業さんや設計士に、
- この間取りで耐震等級はいくつか
- その根拠の資料はあるか
- 吹き抜け部分の構造はどう考えているか
といった質問をしてみると、
説明の仕方からも“会社の考え方”が見えてきます。
11. 視点⑩:コストとメンテナンス
最後は、お金とメンテナンスの視点です。
コストが上がりやすい間取りの特徴
- 複雑な形(凸凹が多い外観)
- 吹き抜け・大開口の多用
- 屋根の形が入り組んでいる
- 無駄に長い廊下
こうした要素は、
- 材料が増える
- 手間が増える
- 足場や防水の工事が複雑になる
といった理由で、建築費が上がりやすくなります。
メンテしやすい設備配置
将来の点検・交換を考えると、
- エアコンの位置(足場なしで交換できるか)
- 屋根や外壁の形(足場が組みやすいか)
- 水まわりが1か所にまとまっているか
といった点も、コストに影響してきます。
長く暮らす家だからこそ、
**「建てるときのコスト」+「住んでからのコスト」**を
セットで考えていけると安心です。
12. ケーススタディ:よくある「惜しい間取り」の見方
ここでは、実際によくある“惜しい間取り”を、
イメージしやすい形でお伝えします。
ケース1:ファミクロはあるけれど遠い家
- 2階ホールに大きなファミクロ
- 洗濯機は1階、干すのも1階の庭
- 取り込んだ洗濯物を2階まで運ぶ必要がある
→ 視点①(家事動線) と 視点③(収納) の両方で要注意。
改善の考え方
- 1階に“しまうための収納”を増やす
- ファミクロを1階に移す or 1階と役割分担する
- 室内干しスペースを2階にも計画する
ケース2:リビングは広いが、朝が大混雑する家
- 洗面・脱衣・洗濯機・トイレが1か所に集中
- クローゼットが寝室の奥だけ
- 玄関からLDKを通ってしか水まわりに行けない
→ 視点②(生活動線) と 視点⑦(ゾーニング)をチェック。
改善の考え方
- 玄関〜洗面〜ファミクロの「ただいま動線」をつくる
- 洗面と脱衣を分ける(2ボウルではなく“2か所”の発想も)
- 廊下からも洗面にアクセスできるようにする
ケース3:SNSで見た「人気の間取り」をそのまま入れた家
- 回遊動線が楽しいが、廊下が増えて狭く感じる
- 吹き抜けを入れた結果、収納が足りなくなった
- 予算がオーバーして、性能や設備を削ることに
→ 視点④(採光)・⑨(構造)・⑩(コスト)のバランスがポイント。
改善の考え方
- 「どうしても必要な回遊か?」を一度立ち止まって考える
- 吹き抜けの大きさを少し抑え、その分収納や性能に回す
- 予算配分の優先順位を「性能・間取り・デザイン」の順にする
大事なのは、
「良い/悪い」ではなく「我が家に合っているか」という視点です。
そのための“物差し”が、ここまでお伝えしてきた10の視点です。
13. まとめ:10の視点があれば、もう大きく失敗しない
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
最後に、10の視点をもう一度まとめます。
- 家事動線(洗濯・キッチン・片付け)
- 生活動線(起床・帰宅・就寝)
- 収納計画(量より“位置”)
- 採光とプライバシー
- 風・空気の流れ
- 音の問題
- ゾーニング(エリア分け)
- 家族の成長と変化
- 構造から見る間取り
- コストとメンテナンス
この10個を意識しながら図面を見るだけで、
- 営業さんの提案が「良い/悪い」でなく理由を持って話せる
- 「なんとなく不安」から「こう改善したい」に言い換えられる
- 打合せの時間を、より有意義に使える
ようになっていきます。
完璧な間取りを目指す必要はありません。
「納得して選べる間取り」であれば、それがご家族の正解です。
そのための“判断材料”として、このnoteが少しでもお役に立てば嬉しいです。

