── 建築士が最初に伝えたい、たった5つの大事なこと
目次
1. はじめに:家づくりは「情報が多い」から迷う
はじめての家づくりって、ワクワク半分、不安半分ですよね。
- SNSを見れば、たくさんの「成功例」「失敗談」
- 住宅会社に行けば、それぞれが「うちが一番です」と説明
- YouTubeやブログにも、いろんな意見があふれている
気づけば、
「何が正しいのか分からない」
「どれを信じたらいいのか分からない」
という状態になりがちです。
この記事は、そんな状況にいるご家族に向けた、
「最初にだけは押さえてほしい基本のルール集」です。
ここでお伝えするのは、たった5つのことですが、
- 間取りの打合せで迷いにくくなる
- 営業トークに振り回されにくくなる
- 「これでいいのかな…」という不安が小さくなる
そんな“判断の軸”になる内容です。
「まだ何も分からない自分でも大丈夫かな?」
そう思われた方にこそ、ゆっくり読んでいただきたい内容です。
2. ルール①:優先順位を決めると、迷いが一気に減る
家づくりで一番最初にやってほしいのは、
「優先順位を決めること」です。
なぜかというと、
- 予算には限りがある
- 土地の条件にも限りがある
- 家の大きさも無限にはできない
からです。
「全部ほしい!」を目指すと、どこかで必ず無理が出ます。
● 優先順位がないと、こうして迷う
優先順位がないと、
- 営業さんに「これは人気ですよ」と言われて追加
- インスタで見たおしゃれな設備を、とりあえず採用
- 「まぁせっかくだし…」とオプションがどんどん増える
気づけば、当初の予算をオーバーし、
本当に大事だったはずのポイント(間取り・性能・暮らし方)が
後回しになることも少なくありません。
● 優先順位の決め方:3つの視点
夫婦で話し合うときは、難しく考えずに
次の3つの視点で考えてみてください。
- 家事のしやすさ
- 洗濯動線
- キッチン周りの使いやすさ
- 片づけやすさ(収納の位置)
- 仕事・子育てとの両立
- 在宅ワークの有無
- 子どもの勉強スペース
- 朝・夜の時間の過ごし方
- 暮らしの価値観
- 「広さ」なのか「質(性能)」なのか
- 「見た目」なのか「使いやすさ」なのか
- 「車中心」か「電車・徒歩中心」か
● 夫婦で話すときの簡単ワーク
紙やスマホに、次のようなリストを作ってみてください。
「これだけは大事にしたいこと」を3つだけ書く
- 夫:① ② ③
- 妻:① ② ③
その上で、
「2人に共通しているもの」=最優先
にしてあげると、ブレにくくなります。
「全部を叶える家」ではなく
「大事なことをちゃんと守れる家」 を目指す。
それだけで、判断がとてもラクになります。
3. ルール②:間取りは「動線」で良し悪しが決まる
間取りを見るとき、多くの方は
- 部屋数はいくつあるか
- 広さは足りているか
- 見た目が好みかどうか
といった“目に見える情報”に目が行きがちです。
でも、実際の暮らしやすさを大きく左右するのは
「動線(どうせん)」=人が動くルート です。
● 動線が悪いと、毎日の小さなストレスになる
例えば…
- 洗濯機が1階、干す場所が2階の奥
- クローゼットが寝室の奥にしかない
- 玄関からキッチンまで遠く、買い物袋が重い
1回だけなら「まあいいか」で済みますが、
これが365日×何十年と続くと、
「なんか地味にしんどい家…」になってしまいます。
● よくある“戻り動線”の例
戻り動線=行って戻って、また行く動きが多い動線です。
- 洗面所とファミクロが離れていて
「着替えに行く → 洗面に戻る → またクローゼットへ…」 - 玄関からリビングを通ってからじゃないと、トイレに行けない
- キッチンとダイニングが遠くて、料理を運ぶたびに往復
こういった「行ったり来たり」が多い間取りは、
毎日の家事や子育てをじわじわと重くします。
● シンプルな“動線チェックリスト”
間取りを見たときに、次の3つだけチェックしてみてください。
- 洗濯動線
- 「洗う → 干す → しまう」まで、スムーズにつながっているか
- どこかで“遠回り”していないか
- 朝の動線
- 起きてから、
「トイレ → 洗面 → クローゼット → ダイニング」
が自然につながっているか
- 起きてから、
- 買い物動線
- 玄関からキッチン・パントリーまで、
重い荷物を持って歩く距離が長すぎないか
- 玄関からキッチン・パントリーまで、
「おしゃれかどうか」の前に
「毎日の動きがラクかどうか」 を見る。
これが、間取りの失敗を減らす一番の近道です。
4. ルール③:性能は「数字」で見る
最近はどの住宅会社も
- 「高気密・高断熱です」
- 「省エネ住宅です」
- 「地震に強い家です」
と説明してくれますが、言葉だけだと比較ができません。
そこで大事になるのが、
「数字で見る」 という考え方です。
● 出てくる主な数字は3つだけ
初心者の方がまず知っておけば十分な数字は、この3つです。
- Ua値(ユーエーち)
→ 「どれくらい“熱が逃げにくいか”を示す数字」
→ 小さいほど、冬は暖かく・夏は涼しくしやすい - C値(シーち)
→ 「家のすきまの量」を表す数字
→ 小さいほど、すきま風が入りにくく、エアコンが効きやすい - 耐震等級
→ 「地震にどれぐらい耐えられる構造になっているか」の等級
→ 等級1〜3まであり、3が一番高いレベル
※細かい定義はもっと専門的ですが、
今の時点では「そういう意味なんだな」ぐらいで大丈夫です。
● 数字で見ておくと「安心材料」が増える
たとえば、
- A社:「うちは高断熱ですよ!」
- B社:「うちはUa値0.4です」
と言われたとき、
後者のほうが“比較しやすくて安心”ですよね。
同じように、
- C値を測っている会社かどうか
- 耐震等級の等級はいくつを標準としているのか
といった“数字の有無”を見ることで、
家づくりの不安はかなり減ります。
「難しい数字は苦手で…」という方も、
『数字で説明してもらえるかどうか』 だけでも意識してみてください。
それだけで、住宅会社を見る目がグッと変わります。
5. ルール④:土地は“暮らし”との相性で判断する
土地探しの場面では、
- 「南向きの土地が一番いい」
- 「駅近が正解」
- 「角地がいい」
といった“イメージ”で選んでしまいがちです。
もちろん、南向きや駅近が悪いわけではありません。
大事なのは、
「あなたの暮らし方と合っているかどうか」 です。
● 南向き至上主義の落とし穴
南向きの土地でも、
- 道路から家の中が丸見え
- 向かいに高い建物があり、思ったほど日が入らない
- 騒音・視線が気になって、カーテンが開けられない
といったケースもあります。
一方で、北道路の土地でも、
- 南側に庭を広く取れる
- 外から室内が見えにくい
- プライバシーを守りやすい
というメリットがある場合もあります。
● 初心者が見落としやすいポイント3つ
土地を見るときは、
つぎの3つを意識してみてください。
- 道路との関係
- 車の出し入れのしやすさ
- 子どもの安全
- 通勤・通学のしやすさ
- 視線(プライバシー)
- 道路や隣家から、どれぐらい家の中が見えそうか
- 将来、周りに建物が建ったときのイメージ
- 音・におい
- 交通量の多い道路、線路、工場などの有無
- 近くに飲食店や施設がある場合のにおい・人通り
土地は“立地だけ”で決まるものではなく、
「その土地に、どんな家を合わせるか」 で価値が大きく変わります。
6. ルール⑤:情報源を絞る
今の時代、情報は探せばいくらでも見つかります。
でも、そのせいで
- ある人は「吹き抜けは絶対やめた方がいい」と言う
- 別の人は「吹き抜け最高!」と言う
というように、正反対の意見が同時に届くことも多いですよね。
大事なのは、
「誰の意見をベースにするか」 を決めることです。
● それぞれの情報源の特徴
- SNS(インスタ・YouTube・ブログ)
- 実体験が聞ける一方で、個人の感想に偏りやすい
- 再生数・バズりを優先した内容も多い
- 営業マンの話
- 自社の商品には詳しいが、他社との比較は苦手なことも
- 「自社で建てる前提」で話が進みやすい
- 建築士の情報
- 間取り・構造・性能を“全体”としてバランスを見る
- 「どこの会社で建てても気をつけたいポイント」を話しやすい
それぞれに長所・短所があるので、
1〜2人「この人の考え方は信頼できそうだ」と思える人を決めておく とよいです。
情報の“量”よりも、
「信頼できる少数の軸」 を持つことが、
迷いを減らす大きなポイントです。
7. よくある「家づくりの勘違い」3選
ここからは、家づくりでよくある“思い込み”を
やさしくほぐしていきます。
① 「広ければ住みやすい」わけではない
広いLDKや大きな家に憧れる気持ちは、とてもよく分かります。
ただ、
- 広い=片づけやすい
- 広い=動きやすい
とは限りません。
- 収納が足りない
- 動線が悪くて移動距離が長い
- 冷暖房が効きにくい
といった場合、
「広いのに、なんだか使いにくい家」 になってしまいます。
② 「有名メーカーなら安心」ではない
大手の住宅会社には、
- 保証やアフター体制が整っている
- 品質管理が統一されている
といった大きなメリットがあります。
ただし、
- すべての営業マン・設計士のレベルが同じとは限らない
- 担当者との相性や、支店ごとのカラーもある
という点もあります。
「会社名だけで決める」のではなく、
- 担当者がどれだけ話を聞いてくれるか
- デメリットも説明してくれるか
- 数字や根拠を示してくれるか
といった、“人”の部分も大事にしてあげてください。
③ 「人気の間取りなら失敗しない」わけではない
SNSでよく見る
- 回遊動線
- 吹き抜けリビング
- ファミクロ+ランドリールーム
などは、たしかに便利な面も多いです。
ただし、それが
- あなたの家族構成
- あなたの働き方・暮らし方
- あなたの土地条件
に合うかどうかは、また別の話です。
大事なのは、
「世の中の正解」ではなく
「自分たち家族の正解」 を一緒に探すことです。
8. 失敗例から学ぶ「後悔の共通点」
ここでは、よくある“後悔パターン”を
やわらかくまとめてみます。
● 間取りの後悔
- 洗濯動線が遠くて、毎日がプチしんどい
- 玄関が狭くて、ベビーカーやアウトドア用品があふれる
- コンセントや照明の位置が、暮らしてみると合わない
● 住宅会社の後悔
- 契約後に、追加費用がどんどん出てきた
- 言った/言わないの食い違いが増え、ストレスに感じた
- 打合せの時間が足りず、なんとなく決まってしまった
● 打合せでの後悔
- 疑問があっても、その場で聞けなかった
- 「まあ大丈夫でしょう」と決めた部分が、後から気になった
- 夫婦で事前に話し合わず、打合せのたびにケンカになった
● これらに共通していること
どの失敗にも共通しているのは、
「判断軸がないまま、流れで決めてしまった」 という点です。
逆に言うと、
- 優先順位がハッキリしている
- 「ここだけは外せない」という軸がある
- 分からないことを、そのままにしない
これだけで、後悔の確率はグッと下がります。
完璧な家は、誰にも作れません。
でも、「納得して選んだ家」 なら、
多少の不便も前向きに受け止めやすくなります。
9. 今日からできる3つの行動
ここまで読んでくださった「今日」から、
すぐにできることを3つだけ挙げます。
① 優先順位リストを作る
夫婦それぞれ、次のような項目を書き出してみてください。
- 譲れないポイント(3つまで)
- できれば叶えたいポイント(3つまで)
- 予算のイメージ(総額/月々)
そのうえで、
- 2人に共通している“最優先”を決める
- 意見が分かれた部分は、「なぜそう思うか」を聞き合う
これだけでも、打合せの質が大きく変わります。
② 間取りで見るポイント5つ(チェックリスト)
間取り図を見るときは、
次の5つに○×を付けてみてください。
- 洗濯動線は「洗う→干す→しまう」がスムーズか
- 玄関からキッチンまで、重い荷物を持っても苦にならない距離か
- トイレや洗面の場所が、来客から丸見えにならないか
- 寝室と子ども部屋の位置関係(音・生活リズム)は問題ないか
- 収納が「欲しい場所のすぐ近く」にあるか
「なんとなく見ていた間取り図」が、
「具体的にチェックできる図」 に変わっていきます。
③ 営業マンに聞くべき質問例
次のような質問を、メモして打合せに持っていくのもおすすめです。
- Ua値・C値・耐震等級は、どのレベルを標準にしていますか?
- その数字の根拠になる資料は、見せてもらえますか?
- この間取りでの“デメリット”や“懸念点”があれば教えてください。
- 予算内に収めるために、削るとしたらどこから順番に削るのがおすすめですか?
質問をすることは「クレーム」ではありません。
「自分たちの暮らしを守るための行動」 です。
遠慮せず、気になることは聞いてみてくださいね。
10. おわりに:家づくりは「知識」があなたを守る
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
このnoteでお伝えしたのは、
家づくりの「超基本」ともいえる5つのルールでした。
- 優先順位を決める
- 間取りは「動線」で見る
- 性能は「数字」で確認する
- 土地は“暮らしとの相性”で選ぶ
- 情報源を絞って、判断軸を持つ
これだけでも、
- SNSの情報に振り回されにくくなる
- 営業トークを冷静に聞けるようになる
- 「なんとなく不安…」という気持ちが少し軽くなる
はずです。
家づくりであなたを守ってくれるのは、
立派なモデルハウスではなく、「正しい知識」 です。
その知識を、少しずつ一緒に増やしていきましょう。
